自己肯定感を支える3つの感情
「自己と組織の創造学」の中で、ウィル・シュッツは、私たちは自己概念を支える3つの感情があると言っています。
それが、“自分は好かれていると思う”「自己好感」、“自分は重要(大切)である思う”「自己重要感」、“自分は能力があると思う”「自己有能感」です。この3つの感覚は誰もが根元的に持っている欲求であり、自己肯定感に影響します。
これらの感情が脅かされたと感じたときに、人は傷つき、感情的に反応しやすくなるのです。
自己肯定感が低いと、この感覚が脅かされると感じる頻度が高くなります。それが嫌な気分をつくり、自己保身的な行動をとりやすくなるので、人間関係に悪影響をもたらします。
自己肯定感が低い人がとりやすい自己保身的行動
私たちは本能的に自分を守る行動をとります。それは自分に対する脅威となるものに対してですが、対人関係などで、自己保身的な行動が頻繁にとってしまうとき、自己肯定感が低い状態であるといえます。
「人は脅威を感じたり、当惑したり、自己価値を脅かされそうになると、無意識に自分の中に深く根差した行動の“マスタープログラム”に戻ってしまう」と組織行動学のクリス・アージリス博士は述べています。そのときの行動は、自分の地位や面目を保つために、頑なまでの自己防衛的態度で自分を正当化しようと、あらゆる脅威に対する反射的な行動を取るというものです。
この態度や行動が反射的に出やすいと、人との良好な関係は築きにくく、それが対人関係を阻害する要因となります。自分が取りやすい保身的な行動の傾向を知り、その行動の理由となる背景を知ることができると、自己肯定感を高めるヒントになります。
自己肯定感が低い状態を示す6つの自己保身的な行動と態度
自己保身や自己防衛的な態度や行動は、自己に対する脅威となるものに対して取られるものです。私たちが誰かに対して、嫌な気持ちや感情的になるときは、何かに反応して、自己価値が脅かされる危機を察知して、なんらかの自己防衛のスイッチが入ったサインです。自己保身的行動の背景には、「自分が自分をどう思うか」の「自己認識」とともに、「相手からどう思われているか」という自分が感じている感情が影響していますが、そこに自己肯定感の低さが大きく影響しています。
6つの自己保身のパターンがあります。自分がとりやすい自己保身のパターンを認識し、自己肯定感を高めていけると、自己価値が脅かされるという感覚が減り、自己肯定感を下げずに保つことができます。
1 他者から承認を過度に求めるタイプ
2 自分にも他者にも完璧を求めるタイプ
3 他者よりも常に優位になろうとするタイプ
4 人を過剰に援助しようとするタイプ
5 自己非難、自己否定をするタイプ
6 自分には関係ないと問題から逃避するタイプ
1 人からの承認を過度に求めて頑張ってしまう(私を認めてさん)タイプ
行動の傾向
□人から認められないと不安
□特別扱いしてほしいという気持ちが強い
□相手の考えに振り回されやすい
□人からどう思われているかいつも気になる
□人から意見されると否定されたと受け止める
□自分の意見を言わず人に合わせやすい
□嫌われなくない、いいひとだと思われたい
□相手に過剰に気を使ってしまう
【特徴】
自己肯定感が低く、自分で自分を認められていないので、「人からどう思われるか」、人から認めてもらう、人から肯定的な働きかけを与えてもらうことで、自己価値を保とうとしています。「認めてほしい」「私はこんなに頑張っている」という思いが強く、褒められ、感謝されるために頑張るタイプ。どの行動においても、人に意識を向けているようで、関心は自分に向けられています。承認をもらえないと常に不安で、他者に対して承認を求める気持ちや止められません。期待していた評価をされないとひどく落ち込んで不満を持ちやすいのも特徴。また、いい人と思われたくて人に合わせすぎてしまう傾向も。
2 理想と目標が高く、自分にも人にも完璧を求める(カンペキさん)タイプ
行動の傾向
□完璧であるべきという意識が自分にも他人にもある
□ちょっとしたミスが許せない
□間違いや失敗を極度に恐れる
□努力を認められず、成果に満足できない
□白か黒かで物事を判断する
□うまくいったことより、うまくいかないことにフォーカスする
□人にも自分にも、満足することができない
□責任をもって、周りの期待に応えたい
【特徴】
自分にも人にも完璧を求めるタイプで「ダメな人って思われたくない」「失敗やミスは絶対したくない」「能力がないと思われたくない」という恐れが強く、完璧であることで、自己価値を証明し、不安を払拭できると信じています。結果を出し、ゴールに到達できたとしても、すぐに不安から次の獲得目標にゴールを置き換えるので、達成した感覚や満足を得にくく、プロセスや努力、経験をなかなか自己価値に積み上げていけません。常に“もっと、もっと”と追い立てられている感覚を持ちやすく、これ以上頑張れなくなったときに、心が折れてしまうことがあります。「白か黒か」「0か100か」という考え方が目立ち、自分にも人にも厳しい。目標や理想通りにならないと満足できず、子どもに対しては過干渉になることも。
他者よりも常に優位になろうとする(私はNO.1さん)タイプ
行動の傾向
□つい人の批判をしてしまう
□自分がいかにすごいかをアピールしがち
□人から意見されると攻撃されたと感じる
□人と比較して優位に感じることで自信を持つ
□ムキになって自分を正当化してしまう
□自分を通さないと不満で、何でも口を出す
□自分の非を認めにくく、人のせいにしがち
【特徴】
「自分は優れている」「自分には能力がある」と思いたい願望が強いために、それを証明しようと躍起になります。「できない人と思われるのが怖い」、「弱いところを見せたらつけこまれてしまう」、「見下されたくない」という思いが強く、出来る人であることを証明したいがために「人との比較」で優位性を保とうとする。そのため、持っているものや肩書、自分に付属しているもので自己価値を高めようとする人も。プライドが高く、負けを認めたがらない、弱さを見せられないタイプ。外見は自信満々のように見えますが、心の奥底に自己肯定感が低いために、対外的に何かを証明するもので自己価値を証明しようとします。
人を過剰に援助しよう(世話焼きさん)とするタイプ
行動の傾向
□誰かの役に立っていないと不安
□相手が助けを求めていないのに助けようとしがち
□自分や身近な問題をほったらかしにしてボランティアに精を出す
□自分を必要と感じてくれる人を探す
□恋愛では相手に尽くしすぎてしまう
□自分が疲れていても相手を助けなくてはと思う
□過干渉になりがち
【特徴】
他者の役に立ちたいという純粋な貢献の気持ちからではなく「満たされない自分のため」の自分や自分の不安を埋める行為になっています。「必要な人と思われることで安心したい」という思いが強く、満たされない不安な気持ちを埋めるために、人のため、誰かのために尽くしてしまう、自分や家族などが抱えている問題から目を逸らすために、外の世界で自分の居場所をみつけようとするタイプ。他の人の問題に集中すれば、自分が抱えている問題に向き合わずにすみ、自分の問題から目を逸らすことができます。他者の役に立てば、自分が必要とされていると感じられますが、それが自己犠牲からの補償行為になると、いくら人を助けても自分の満足にはつながりません。
自己非難、自己否定をする(くよくよさん)タイプ
行動の傾向
□「私なんて」「どうせ無理」と思いがち
□自分は「かわいそう」「被害者」だとよく思う
□自分のことは人に理解されないと感じる
□人に心を開きにくい
□何かあると非難されていると感じる
□なんで自分ばかりと思いがち
□悩みをひとりで抱え込みやすい
□何かあるたび「私が悪いんだ」と思う
【特徴】
何かあると自分を責め、物事と自分を関連付けて否定的に捉えやすいため、常に不安を抱えています。「傷つきたくない」「非難されたくない」という思いが強く、マイナス思考で自虐的になる傾向。自己肯定感が低いため、能力がない自分、人の期待に応えられない自分を責め、非難することで、無意識に他者から責められないように自分を守っているとも言えます。自分の殻に閉じこもる傾向が強く、失敗を過度に恐れるので、なかなか行動に移すことができません。それが主体性を持って生きることを難しくします。
自分は関係ないと問題から逃避する(逃げちゃえさん)タイプ
行動の傾向
□何か問題が起こっても無関心を装う
□本気にならない
□都合が悪いことは興味のないふりをする
□問題があっても解決しようとしない
□いい人を演じがち
□人と深く関わることを避ける
□困難な場面に直面することを避ける
□困難な状況から逃げ出す
【特徴】
自分への能力への不安があると「自分には関係ない」という態度を取ることで、問題に巻き込まれるのを避け、自分にとって都合の悪い事は興味のないふりをして、関わるのを避けようとします。そうすることで、自己価値が危機にさらされることを回避し自分を守っているのです。人と関わらないことで、自分がうまくいかないことや、困難に直面して失敗するリスクを回避しています。自分はまだ本気を出していないことを言い訳にして行動を起こさないことで自分のプライドを保とうと、自分には関係ないと問題から逃避する傾向。肝心なことはやらない、関わらないことで、困難なことや都合の悪い事を避けようとするタイプと言えます。
(引用:職場の人間関係は自己肯定感が9割 工藤紀子著、LDK 2020年9月号特集)
「自己肯定感が低いと頻度が高まる保身的行動」
自分が認めたくなかったり、自己価値を感じられていないことから目をそらそうと無意識に取ってしまう行動や態度が「自己保身」です。ここでご紹介した「自己保身」のパターンは、多かれ少なかれ誰もが持っているものですが、自己肯定感が低いとその頻度は高まります。
そこで、自分のどんな考えが自己価値を脅かし、自己保身の行動や態度に駆り立てるのかを理解し、自己肯定感を高めていくことが大切になります。
では、自己肯定感はどのように高めていけばよいのでしょうか?
次の単元でその方法をご紹介します。
次の項目では、自己肯定感を高める方法として当協会でお伝えしている5つのステップをお伝えします。