組織の中で自己肯定感を向上させると?

工藤紀子
この記事の監修者
工藤紀子|代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。自己肯定感の研究と実践に32年取り組み、のべ2万8千人以上に研修を実施。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』『職場の人間関係は自己肯定感が9割』等。詳しいプロフィール →

「メンバーの相性が悪い」「あの部署は昔から風通しが悪い」――チームがうまく回らないとき、原因は人の組み合わせに求められがちです。

けれど、組織心理学はもう少し手前を見ています。問題はメンバーの違いから生まれているのではなく、一人ひとりが自分をどう扱っているかから生まれている、という見方です。

「自己肯定感は、組織におけるすべての人間関係の中心である」

FIRO理論で知られる心理学者ウィル・シュッツは、著書『The Human Element: Productivity, Self-Esteem, and the Bottom Line』(1994年。邦訳『自己と組織の創造学』1995年)のなかで、「セルフエスティーム(自己肯定感)は組織におけるすべての人間関係の中心である」と述べています。

さらに同書には、企業や組織の中で起こるチームワークの問題は、個々の柔軟性のなさと自己を防衛することから起こり、それらは構成するメンバーの違いから生じるのではなく、個々の自己肯定感の低さと、自分自身を暴露される恐れに由来していると書かれています。

人が合わないのではなく、自分を守ることに力を使わざるを得ない状態にある――そう捉えると、打つ手が変わります。

自己肯定感が低いと、職場で何が起こるか

それは、何か問題が起こったときに個々がとる行動に現れます。

① まず自分の正当性を主張し、他者を非難する

自己防衛が先に立つと、事実を確かめる前に「自分は悪くない」を確保しようとします。会議の時間が、原因の特定ではなく責任の所在争いに使われていきます。

② 問題を「自分とは関わりのないこと」にする

うまくいっていないことが露呈することや、自分が非難されることへの恐れや心配が先立つと、起こった問題を自分とは関わりのないこととして捉えます。結果として建設的な話し合いにならず、問題解決そのものが妨げられてしまうのです。

③ 本当の課題が議題に上がらない

「これを言うと自分の評価が下がる」と感じる場では、一番大事な情報が共有されません。小さな異変が報告されず、手遅れになってから表に出てきます。

これらはいずれも、組織内において自分への脅威を感じているから起こることです。能力やスキルの問題ではありません。

評価制度が機能しない、本当の理由

同書では、個々がそれぞれの長所や短所を認められ、本当の自分を受け入れられたと感じ、健康な自己肯定感を持ち、問題が起こったときに一人ひとりがお互いの問題であるという意識を持ち、誰かを非難することをやめるとき、初めて業績考課は成功すると記されています。

評価の仕組みを精緻にしても、評価が「自分の存在への判定」として受け取られる状態では、面談は守りの場になります。率直なフィードバックが機能するかどうかは、制度の設計よりも、受け取る側の土台に左右されるのです。

脅威が減ると、柔軟性が戻る

自己肯定感が低いことから起こる個々の自己概念への脅威が軽減されるとき、グループやチームは柔軟性を取り戻し、パフォーマンスも向上します。

同じメンバー、同じ業務量でも、「失敗しても自分の価値は減らない」と思えている状態では、情報の出方と意思決定の速さが変わります。

近年よく語られる「心理的安全性」も、同じところを指しています。Googleの社内調査で高い成果を出すチームの最重要要因として挙げられた概念ですが、制度やルールだけでは生まれません。シュッツが半世紀近く前に書いたとおり、その成立条件は一人ひとりが自分を受け入れられているかどうかにあります。チームに安全をもたらすのは、安全を約束する規則ではなく、脅威を感じにくい個人の状態です。

組織開発として、どこから手をつけるか

順番があります。

① 仕組みより先に、土台を見る。1on1の制度を入れても、話す側が「弱みを見せたら不利になる」と感じていれば形だけになります。

② 管理職から始める。部下の自己肯定感を高めても、戻る現場の関わり方が変わらなければ元に戻ります。非難をやめる文化は、上から順に伝わります。

③ 「誰のせいか」を問う習慣を外す。シュッツが指摘した「誰かを非難することをやめる」は、個人の心がけではなく、会議の進め方として設計できます。

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家庭やクラスという単位でも、同じこと

これは企業だけに限らず、小さな組織である家庭や学校のクラスという単位でも、同じことが言えます。

チームの力を発揮していくには、そこに関わる一人ひとりの自己肯定感が大きく関わり、それはそのまま個々の幸福度にも影響を与えていくのです。

参照:ウィル・シュッツ『The Human Element: Productivity, Self-Esteem, and the Bottom Line』(Jossey-Bass、1994年/邦訳『自己と組織の創造学』1995年)

(文責:代表理事 工藤紀子)

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