
オープン・ループ(Open Loop)とは?
生活に差し迫った問題があるわけでもないのに、不安や緊張を感じたことはないでしょうか。
それは、”オープン・ループ(Open Loop)”と呼ばれる微小なストレス要因が原因のひとつかもしれません。 誰しもが持っているものですが、その正体を知っていると対処可能になります。
オープンループの概念は、心理学者のブルーマ・ツァイガルニクによって紹介されたのですが、ツァイガルニクは長年の研究を通じて、人間の脳は完了した仕事よりも未完了の仕事を思い出し、集中する傾向があることを発見しました。
これはツァイガルニク効果(ザイガニック効果とも言う)として知られています。
簡単に言うと、ジグソーパズルなどで、あと1ピース残しておいてあったら、なんとかして完成させたくなる心理状態です。
進化論的な観点から見ると、ツァイガルニク効果は生存本能に根ざしているとされています。原始時代、脅威から完全に逃れられたと確信できるまでは警戒を怠らなかったことが、結果的に生き残ることにつながったからです。
現代社会では、様々な未完了のタスクが積み重なることでストレスを感じやすくなっています。そのため、オープン・ループを特定し、できるだけ早く解消することが重要です。
オープン・ループ(Open Loop)が自己肯定感に与える影響と対策
自己肯定感の観点からみると、長所より欠点が気になってしまうのは、終わったタスクよりも未完のタスクが気になるのと同じと考えることができます。
下図のように欠けている部分(短所や欠点)は割合は小さいのにそこがとても気になるのも同様の理由です。
日本人は完璧を求める傾向が強いので、自身で短所や欠点と感じている部分が気になりストレスを感じます。
タスクなど以外でも、オープンループは、自分の発言や行動に対する相手の反応を気にしすぎ、それによって自分の価値観が揺らいでしまうことを指します。例えば、SNSに投稿しても「いいね」がつかないと落ち込んだり、友人に連絡しても返事がないとひどく不安になったりするのもそうです。
オープンループに陥ると、他者からの評価に自己価値を委ねてしまい、自己肯定感が低下します。他人に認められないと自分を受け入れられなくなり、自信を失っていきます。そうなると、ますます他者の反応を気にするようになり、悪循環に陥ります。これを防ぐには、以下のような対策が有効です。
- 自分の価値は他者の評価で決まるものではないと意識する。自分を愛し、認めることが大切。
- SNSなどへの依存を減らし、リアルな人間関係を大切にする。
- 他者の反応をあまり気にしすぎず、自分の考えや感情を素直に表現する習慣をつける。
- 自分の長所や成果を積極的に認め、自己肯定感を高める努力をする。
- 必要以上に完璧を求めず、失敗やマイナス評価も受け止める柔軟性を身につける。
オープンループから抜け出し、自己肯定感を取り戻すには時間がかかります。焦らず、一歩ずつ自分を取り戻していくことが大切です。周囲の支えを借りながら、じっくり取り組んでいきましょう。自分を大切にし、自分らしく生きることが、何より重要だと思います。
完璧主義と自己肯定感の関係
ツァイガルニック効果とオープンループの概念を、完璧主義と自己肯定感の関係に応用した研究はいくつかありますが、完璧主義者は未完成の状態を許容できず、ネガティブな思考パターンに陥りやすいことがわかります。これはツァイガルニック効果とオープンループの概念から説明できます。
完璧主義者は、未完成のタスクや不完全なコミュニケーションに執着しがちです。これは、ツァイガルニック効果により未完了の状態が記憶に残りやすく心理的な緊張を生み出すためです。また、オープンループの状態に陥りやすく、他者からの反応を過度に気にするため、自己肯定感が低下しがちです。
これらの問題を改善するためには、以下のような方法が考えられます:
- マインドフルネス瞑想:現在の瞬間に意識を向け、思考や感情をそのまま受け入れる練習をすることで、反すうや執着を減らすことができます。
- 認知行動療法:非合理的な信念(例:「完璧でなければならない」)を特定し、より適応的な思考パターンに変えることで、心理的な柔軟性を高められます。
- セルフ・コンパッション:自分自身に優しく、理解を持って接することで、自己肯定感を高め、完璧主義から抜け出しやすくなります。
- 目標設定の見直し:完璧を求めるのではなく、現実的で達成可能な目標を設定することが大切です。小さな成功体験を積み重ねることで、自己効力感が高まります。
これらの方法を通じて、完璧主義の傾向を和らげ、自己肯定感を高めていくことが可能です。ただし、個人差があるため、専門家の助言を得ながら、自分に合った方法を見つけていくことが重要だと思います。
日本人の完璧主義傾向
日本人の完璧主義傾向に関する研究はいくつか存在しますが、日本文化の特性が完璧主義傾向に影響を与えていることを示唆しています。日本社会では、失敗が許容されにくく、他者からの評価を過度に気にする傾向があります。このような文化的背景が、日本人学生の「失敗への懸念」と「行動疑念」の高さにつながっていると考えられます。一方、アメリカ文化では個人主義が重視され、自己の基準を重んじる傾向があります。これが、アメリカ人学生の「個人的基準」の高さに反映されていると解釈できます。
特に、日本人が他者からの評価を重視する傾向に着目し、それが完璧主義傾向とどのように結びついているかを論じています。例えば、以下のような論文があります。
“Cultural differences in perfectionism: A comparison of Japanese and American students” (Sumi & Kanda, 2002): この研究では、日本人学生はアメリカ人学生よりも完璧主義傾向が高いことが示されました。
“Perfectionism and self-presentation in Japanese culture” (Heine et al., 1999): この研究では、日本文化における完璧主義と自己呈示の関係が議論され、日本人は他者からの評価を気にする傾向が強いことが指摘されました。
これらの研究から、日本文化の特性が完璧主義傾向に影響を与えていることがわかります。集団主義的な文化、他者からの評価を重視する傾向、失敗を恐れる姿勢などが、完璧主義を助長していると考えられます。
日本人の完璧主義傾向を改善するためには、文化的な背景を考慮した方法が有効だと思います。禅の実践は、マインドフルネスと似た効果が期待できるでしょう。以下のような具体的な方法が考えられます:
- 禅の瞑想:座禅や歩行瞑想を通じて、今この瞬間に意識を向け、思考や感情に流されない心の状態を培うことができます。これは、完璧主義から生じる執着や不安を手放すのに役立ちます。
- 「わび・さび」の美学の実践:不完全さや非対称性を美とする日本独自の美意識を取り入れることで、完璧主義から抜け出しやすくなります。茶道や俳句、日本庭園などに触れることで、この美意識を体験できます。
- 「甘え」の健全な表現:日本文化特有の「甘え」の概念を健全な形で表現することで、他者からの支えを受け入れ、完璧を求めなくても良いという心理的な許可を自分に与えられます。
- 失敗を学びの機会ととらえる:日本社会では失敗が許容されにくい傾向がありますが、失敗を成長の機会ととらえ直すことが大切です。失敗から学ぶ姿勢を身につけることで、完璧主義から抜け出しやすくなります。
- 集団の中での個人の存在価値の再認識:集団の調和を重視する日本文化では、個人の価値を見失いがちです。自分の独自性や長所に目を向け、集団の中でも自分らしさを大切にする姿勢を持つことが重要です。
これらの方法を通じて、日本人特有の完璧主義傾向を和らげ、自己肯定感を高めていくことが可能だと思います。ただし、文化的な影響は根深いため、変化には時間がかかるかもしれません。粘り強く、自分に合った方法を実践していくことが大切です。
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【参考】
1. “The mediating role of rumination in the relation between perfectionism and psychological distress” (Flett et al., 2016)
2. “Perfectionism, rumination, worry, and depressive symptoms in early adolescents” (Flett et al., 2012)
3.”Perfectionism and self-presentation in Japanese culture” (Heine et al., 1999)