女性活躍を阻むインポスター症候群と自己肯定感との関係

インポスター症候群
工藤紀子
この記事の監修者
工藤紀子|代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。自己肯定感の研究と実践に32年取り組み、のべ2万8千人以上に研修を実施。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』『職場の人間関係は自己肯定感が9割』等。詳しいプロフィール →

女性社員のインポスター症候群への対応は、本人に「もっと自信を持って」と求めるだけでは不十分です。

人事・管理職が、登用の理由を具体的に伝える、成果とプロセスを承認する、ロールモデルと出会う機会をつくるといった働きかけを行い、本人の自己肯定感と「自分にもできる」という自己効力感を育てることが、女性リーダーを増やす土台になります。

日本の女性活躍社会を実現するためには、インポスター症候群の克服が重要な課題の一つです。インポスター症候群の状態にある人は、自分の能力や成果を過小評価し、自己肯定感が低い傾向があります。そのため、昇進やリーダーシップの発揮をためらったり、キャリアの停滞につながったりする可能性があります。

この記事では、人事・管理職・女性活躍推進のご担当者様に向けて、職場で見られるサインと、組織として取り組めることを紹介します。

インポスター症候群とは

インポスター症候群とは、周囲から評価されたり成果を出したりしても、それを自分の実力だと受け止められず、「いつか能力がないと見抜かれるのではないか」と不安を感じる心理傾向のことです。自分の能力についての自己認識と、周囲からの評価との間にずれが生じている状態ともいえます。正式な病名ではありません。
→ 意味や特徴、個人でできる対処法は、インポスター症候群とは?意味と特徴、女性に多い理由と克服法で詳しく解説しています。

女性の昇進の場面で、インポスター症候群が表れやすい理由

インポスター症候群は、研究では男女ともに見られると報告されています。それでも女性活躍の文脈で注目されるのは、昇進や登用の打診という場面で、女性が「自分には無理です」とためらう形で表れやすいからです。

その理由として、女性は男性より「謙虚さ」を重んじるよう期待されやすく、男性が多い職場で活躍する際には、自分は「特別に選ばれた」存在だ、あるいは「数合わせで選ばれただけだ」という意識を抱きやすい点が指摘されています。また、日本を含む東アジアでは、伝統的に女性は家庭を守る役割、男性は社会で活躍する役割が重視されてきました。こうした役割意識が、女性がリーダーとして前に出ることへのためらいにつながっていると考えられます。

データで見る、女性活躍の現状

帝国データバンクが2025年7月に行った調査(有効回答10,626社)では、女性管理職の割合は平均11.1%で過去最高となった一方、政府目標の「30%以上」を達成している企業は11.9%にとどまりました。企業からは「女性が昇格を辞退する」「家庭との両立が困難」といった課題が挙がっています。

リクルートマネジメントソリューションズが2025年3月に大手企業の女性社員を対象に行った調査では、管理職一歩手前の女性のうち、より上位の役職に就きたいと答えた人は29.0%でした。昇進をためらわせる要因としては、「時間外労働が増える」「心理的負荷が増える」「転居を伴う異動(転勤)の可能性が上がる」が上位に挙がっています。

また、男女の賃金格差にも、女性が力を発揮しきれていない状況が表れています。

国・地域男女の賃金格差
日本21.3%(2022年)
米国17.0%(2022年)
英国14.5%(2022年)
OECD平均11.9%(2021年)

出典:経済協力開発機構(OECD)のデータ。男性の賃金の中央値に対する、男女の賃金の中央値の差の割合。

日本の格差はOECD平均のおよそ2倍の水準です。背景には、正社員と比べて賃金が低いパートタイムで働く女性が多いことなどがあります。

職場で見られるインポスター症候群のサイン

次のような様子が繰り返し見られる場合、能力や意欲の問題ではなく、インポスター症候群が背景にある可能性があります。

  • 十分な実績があるのに、昇進やリーダー役の打診を「自分にはまだ早い」と辞退する
  • 会議で意見を持っていても発言を控え、確信があるときしか手を挙げない
  • ほめられると「運がよかっただけです」「周りのおかげです」と否定する
  • 失敗を恐れて、必要以上に準備に時間をかけたり、一人で抱え込んだりする
  • 登用されたあと「数合わせで選ばれたのでは」と気にして、本来の力を出しきれない

インポスター症候群と自己肯定感の関係

インポスター症候群と自己肯定感は密接に関連しています。インポスター症候群の状態にある人は、自分の能力や成果を客観的に評価することが難しく、自己肯定感を高めづらい傾向があります。

JISEでは、自己肯定感を、あるがままの自分の存在を認め肯定する「絶対的自己肯定感」と、自分の能力や成果、評価から得る「社会的自己肯定感」の2つの側面から考えています。絶対的自己肯定感が高ければ、自分の能力や成果を過小評価せず、自信を持って行動することができます。そのため、自己肯定感を高めることは、インポスター症候群の克服につながります。
→ 自己肯定感とは?「絶対的自己肯定感」と「社会的自己肯定感」

人事・管理職ができる5つの取り組み

これらを踏まえると、女性が自分の能力や成果を正当に評価し、自信を持ってキャリアを築けるようにするために、組織として次のような取り組みが考えられます。

1. 女性のロールモデルを増やす

女性リーダーを増やすためには、組織や企業で女性をリーダーシップの役割に積極的に登用することが重要です。彼女たちの知識や経験を共有することで、他の女性たちにリーダーシップの模範を示すことができます。女性が影響力のあるポジションに就けるような取り組みやプログラムを導入し、発言機会を増やすことが必要です。

女性リーダーのストーリーや成果を社内報やイントラネットなどで広めることも大切です。完璧な成功談だけでなく、挑戦や困難を乗り越えてきた姿勢に焦点を当てることで、「自分にもできるかもしれない」と感じてもらいやすくなります。社外の女性リーダーとのネットワークや交流会に参加する機会をつくることも有効です。

2. 女性の活躍を承認し、称賛する文化を醸成する

女性の業績や貢献を共有し、公的な場で表彰することにより、女性の活躍を広く認知することができます。

日々のマネジメントでは、「よく頑張ったね」という抽象的な言葉よりも、「この提案の、〇〇の視点が決め手になった」と、行動と成果を具体的に伝える承認が効果的です。インポスター症候群の状態にある人は、あいまいなほめ言葉を「お世辞」と受け取りがちだからです。

3. 女性が活躍しやすい環境を整える

育児・介護休業制度や時短勤務制度などを整備し、キャリアの継続と家庭生活のバランスを取りやすくしましょう。管理職の長時間労働が当たり前になっていると、「管理職になったら両立できない」と挑戦をためらう理由になります。

あわせて、トレーニングやワークショップを通じて偏見や固定観念(アンコンシャス・バイアス)への理解を深め、女性が自由に意見を述べられる文化を育むことが重要です。

4. 登用・任命のときに「なぜあなたなのか」を伝える

昇進やリーダー役を打診するときは、これまでの具体的な実績や行動を挙げて、任せる理由を言葉で伝えましょう。「数合わせで選ばれたのでは」という不安を和らげることができます。辞退の申し出があった場合も、すぐに受け入れるのではなく、何が不安なのか、どんな支援があれば挑戦できるのかを対話で確かめることが大切です。

就任後は、メンタリングプログラムや定期的な1on1で、経験豊かなリーダーが相談に乗れる体制を整えると、一人で抱え込むことを防げます。

5. 女性自身が自己肯定感を育てる機会をつくる

環境を整えても、本人の中にある「自分はふさわしくない」という思い込みは、それだけでは変わりにくいものです。女性自身が自分の強みや成果に目を向け、自己肯定感を育てる研修やワークショップの機会を設けることが、取り組みの効果を高めます。

トロフィーを掲げる自分の影の前でうずくまる女性。成果を出しても自分を認められないインポスター症候群のイメージ

女性自身が意識を変えるために

インポスター症候群を克服するためには、組織の取り組みとあわせて、女性自身の意識の変化も大切です。研修や面談の場で、次のような視点を伝えることができます。

  • 成果とプロセスに目を向ける:日々の進歩や成長に注目し、自分が何を考え、どう工夫したかを振り返る
  • ネガティブな自己対話に気づく:「どうせ私なんて」という言葉に気づいたら、達成したことや得意なスキル、強みを意識的に言葉にする
  • フィードバックを成長の材料にする:弱点や改善点の指摘を、自分の価値の否定ではなく成長のチャンスと捉える
  • 先輩リーダーから学び、サポートを活用する:一人で完璧を目指さず、周囲の力を借りる

これらの取り組みは、組織と一人ひとりが協力することで効果を高めることができます。インポスター症候群は克服可能であり、個人の意識の変化と組織全体の取り組みにより、女性が力を発揮できる職場は着実に広がっていくでしょう。

人事・女性活躍推進のご担当者様へ

昇進をためらう、発言を控える、挑戦を避ける。女性社員のこうした課題に対して、インポスター症候群への理解と自己肯定感・自己効力感を土台にした女性活躍推進研修を行っています。

女性活躍推進研修を見る研修について相談する

(文責:工藤洋一)

あわせて読みたい:女性リーダー育成に必要なのは「スキル」だけではない

よくある質問(FAQ)

Q1. インポスター症候群は女性に多いのですか?

研究では、インポスター症候群は男女ともに、さまざまな年代や職業で見られると報告されています。ただし職場では、女性管理職のロールモデルが少ないことや「控えめがよい」という周囲の期待から、昇進や登用の打診を受けた場面で、女性が「自分には無理です」とためらう形で表れやすいと考えられます。

Q2. 女性社員が昇進を辞退するのは、インポスター症候群が原因ですか?

理由は一つではありません。調査では、時間外労働や心理的な負担、転勤の可能性が増えることが昇進をためらう理由として挙がっています。働き方の課題とあわせて、「自分はその役職にふさわしくない」という自己評価の低さが背景にないかを、面談などで丁寧に確かめることが大切です。

Q3. 人事・管理職がまず取り組めることは何ですか?

登用や任命の際に「なぜあなたに任せるのか」を具体的な行動や成果で伝えること、成果だけでなくプロセスを承認すること、身近なロールモデルやメンターと出会う機会をつくることから始められます。制度の整備とあわせて、本人が「自分にもできる」と思える土台づくりが欠かせません。

Q4. 女性リーダー研修では、どのようなことを扱いますか?

当協会の女性活躍推進研修では、インポスター症候群への理解に加え、自己肯定感と自己効力感を土台に、自分の強みや成果を正しく認め、リーダーとして挑戦する意欲を育てるワークを行います。対象や課題に合わせて内容を調整しますので、お気軽にご相談ください。

参考資料

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工藤 洋一 理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 理事。自己肯定感に関するコラム執筆・講座運営を担当。

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