リーダーを目指さない女性たち・・インポスター症候群とは?


インポスター症候群とは、周囲から評価されたり成果を出したりしても、それを自分の実力だと受け止められず、「いつか能力がないと見抜かれるのではないか」と不安を感じる心理傾向のことです。
正式な病名ではなく、男女を問わず見られます。日本では、昇進や管理職への登用をためらう女性の背景として注目されています。JISEでは、成果だけで自分の価値を支えようとする自己肯定感の土台の揺らぎが関係していると考えています。
この記事は、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)の著者で、JISE代表理事の工藤紀子が執筆しています。
インポスター症候群とは?意味と語源
「インポスター症候群」という言葉をご存知でしょうか?
インポスター(impostor)は、詐欺師、ペテン師を意味する英語です。「インポスター症候群」とは、これまでの成功は自分の実力ではなく、運や周りの人のおかげだと思い、自分のキャリアはまがいものだと後ろめたく感じたり、いつか自分が“詐欺師”であることが発覚するのではないかといった不安な心理状態になり、昇進などに消極的になる状態をいいます。
この心理傾向は、1978年に心理学者のポーリン・クランスとスザンヌ・アイムスが、社会的に成功している女性たちの研究の中で「インポスター現象」として報告したのが始まりです。社会的に広く注目されるきっかけのひとつとなったのが、フェイスブックの元COO、シェリル・サンドバーグ氏が著書『LEAN IN(リーン・イン)』で、インポスター症候群に苦しんでいた自身の過去を明かしたことでした。
なお、インポスター症候群は精神疾患の正式な診断名ではありません。62の研究を対象にした2020年のシステマティックレビューでは、該当する人の割合は調査方法によって9〜82%と大きく異なり、男女ともに、さまざまな年代や職業で見られることが報告されています。
インポスター症候群に見られる特徴
次のような傾向がいつも繰り返される場合、インポスター症候群の状態に近いといえます。
- 成功や評価を「運がよかっただけ」「周りのおかげ」と考える
- ほめられても素直に受け取れず、否定したくなる
- 「期待に応えられなかったらどうしよう」と、必要以上に準備したり頑張りすぎたりする
- 小さなミスで「やっぱり自分には能力がない」と感じる
- 昇進や新しい役割を打診されると、「自分には無理です」と辞退したくなる
- 周囲の人と比べて、自分だけが劣っているように感じる
※これは診断のためのチェックではありません。つらさが強く、日常生活や仕事に支障がある場合は、専門の医療機関にご相談ください。
なぜ女性はインポスター症候群に悩みやすいと言われるのか
インポスター症候群は男女ともに見られますが、とりわけ有能な女性、高いキャリアを築いている女性や専門職の女性が、昇進やリーダーへの挑戦の場面で悩むことが多いと言われます。
その背景には、幼少期から家庭や社会で「女性はおとなしく控えめがよい」といったジェンダー規範が影響し、それが自信をなくす要因となっていると考えられます。
女性管理職比率の向上が企業に求められている中で、インポスター症候群に陥っている女性を管理職や役員などに登用した場合、「自分は単なる数合わせのために選ばれたに過ぎない」と思い込んでしまうこともあるようです。そうなると、本来の能力が発揮しづらくなります。
データにも、女性がリーダーになることに自信を持ちにくい傾向が表れています。国際NGOプラン・インターナショナルが2019年に世界19ヵ国の15〜24歳の女性に行った調査では、リーダーとしての能力に「かなり自信がある」「少し自信がある」と答えた日本の女性は27%で、19ヵ国平均(62%)を大きく下回りました。
また、大企業に入社した若手社員(入社1〜5年目)を対象にした調査では、管理職を「目指したい」「どちらかというと目指したい」と答えた人が、男性80.3%に対し、女性は44.9%にとどまっています(内閣府男女共同参画局『共同参画』2020年7月号)。
責任のある地位に就くには長時間労働が必要で、プライベートとの両立をあきらめなければならないという意識や、育児・介護との両立の難しさ、競争や押しの強さといった従来のリーダー像と自分のイメージとの不一致も、女性が昇進をためらう一因と考えられています。
インポスター症候群と自己肯定感の関係
JISEでは、自己肯定感を2つの側面から考えています。自分の存在そのものを認める「絶対的自己肯定感」と、成果や評価、肩書などから得る「社会的自己肯定感」です。
土台となる絶対的自己肯定感が十分に育っていないと、成果や評価だけで自分の価値を支えようとします。すると、どれだけ成果を出しても「次に失敗したら価値がなくなる」という不安が消えず、成功を自分の実力として受け止められない状態が生まれます。これが、インポスター症候群の心の仕組みだと考えています。
→ 自己肯定感とは?「絶対的自己肯定感」と「社会的自己肯定感」
インポスター症候群を和らげるためにできること
- 「インポスター感覚」に名前をつけて気づく:「今、自分を偽物だと感じている」と気づくだけで、感情に飲み込まれにくくなる
- 成果と、そこに至るプロセスを書き出す:何を考え、どう工夫したかを言葉にし、運だけではなかったことを確かめる
- ほめ言葉を否定せずに受け取る:「そんなことありません」ではなく「ありがとうございます」と受け取る練習をする
- 完璧でなくても価値は変わらないと知る:失敗やわからないことがあっても、自分の存在の価値は変わらない
- 信頼できる人に気持ちを話す:同じ思いを抱えている人が多いと知ることが、安心につながる
企業・職場でできること
女性リーダーを増やすには、制度を整えるだけでなく、本人が「自分にもできる」と思える土台づくりが欠かせません。ワークライフバランスを実現する制度や、ジェンダー規範を押しつけない職場づくりとあわせて、管理職による具体的な承認や、ロールモデルと出会う機会が効果的です。
当協会では、女性がキャリアアップへの自信をつける研修のお問い合わせを多くいただいていますが、今、職場で女性リーダーを増やすには、女性の自己肯定感を高める教育なしには難しいと考えています。
- 女性活躍を阻むインポスター症候群と自己肯定感の関係 — 人事・管理職が取り組めること
- 女性リーダー育成に必要なのは「スキル」だけではない — 研修を検討している方へ
人事・女性活躍推進のご担当者様へ
昇進をためらう、発言を控える、挑戦を避ける。女性社員のこうした課題に対して、インポスター症候群への理解と自己肯定感・自己効力感を土台にした女性活躍推進研修を行っています。
(文責:代表理事 工藤紀子)
よくある質問(FAQ)
Q1. インポスター症候群とはどういう意味ですか?
インポスター症候群とは、周囲から評価されたり成果を出したりしても、それを自分の実力だと受け止められず、「いつか能力がないと見抜かれるのではないか」と不安を感じる心理傾向のことです。インポスター(impostor)は、英語で「偽物」「詐欺師」を意味します。
Q2. インポスター症候群は病気ですか?
いいえ、正式な精神疾患の診断名ではありません。ただし、研究では、不安や抑うつ、燃え尽きと一緒に見られることがあると報告されています。つらさが強く日常生活に支障がある場合は、専門の医療機関に相談してください。
Q3. インポスター症候群は女性だけに起こるのですか?
いいえ。はじめは成功した女性を対象に研究されましたが、現在では男女ともに、さまざまな年代や職業で見られることがわかっています。一方で、日本では「女性は控えめがよい」といった周囲の期待や、女性管理職のロールモデルの少なさから、女性がリーダーへの挑戦をためらう場面で表れやすいと考えられます。
Q4. インポスター症候群は克服できますか?
性格として固定されたものではないため、考え方の癖に気づき、成果やプロセスを自分で認める習慣をつけることで和らげていくことができます。JISEでは、成果に左右されない自己肯定感の土台を育てることが大切だと考えています。
参考資料
- Clance, P. R., & Imes, S. A. (1978). The imposter phenomenon in high achieving women. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 15(3).
- Bravata, D. M., et al. (2020). Prevalence, Predictors, and Treatment of Impostor Syndrome: a Systematic Review. Journal of General Internal Medicine.
- 公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン「日本における女性のリーダーシップ 2021」(2019年の19ヵ国調査の結果を掲載)
- 内閣府男女共同参画局「共同参画 2020年7月号」


















