近年、「自己肯定感」という言葉が広く知られるようになりました。育児や教育の場に関わる人だけでなく、若い人たちもこの言葉に反応し、社会で生き抜く力や自己実現、プライベートの充実のために、当協会が開催する自己肯定感を高める講座を受講される方も増えています。なぜ「自己肯定感」が求められているのでしょう。教育の場を中心に考えてみたいと思います。
内閣府が実施した、日本を含めた七か国(ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、スウェーデン、韓国)の満十三〜二十九歳の若者七千四百三十一名を対象とした意識調査が、二〇一四年に発表されました。今の日本の若者が自分自身をどう捉えているかについて、自己肯定感、意欲、心の状態、社会規範、社会参加、将来像という観点から調査しています。
「自己肯定感」という観点では、「自分自身に満足しているか」の質問に対して、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した者は、日本以外の六か国は七割~八割強だったのに対して、日本は四割強で最も低い結果でした(図1)。また、「自分には長所があると感じているか」の質問に対しては、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者は、七か国のうちドイツ、フランス、アメリカ、イギリスでほぼ九割だったのに対し、日本は七割弱でした。
自分に誇りをもっているかという質問では、「やさしさ」「まじめ」という点では自己評価が高いものの、他の全ての項目で、日本は諸外国平均を下回り、日本の若者は諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低く、自分に誇りをもてていないという結果が出ています。
また、日本を含む三十四か国・地域が参加し、学校の学習環境と教員の勤務環境に焦点を当てたOECD国際教員指導環境調査による教員の自己効力感についての調査結果を見ると、日本の教員は調査項目のいずれの側面においても高い自己効力感をもつ教員の割合が参加国平均を大きく下回っています。中でも、「生徒に勉強ができると自信をもたせる」について、教師の自己効力感を示す回答の割合は参加国平均85.8%に対し、日本は17.6%、「生徒が学習の価値を見出せるよう手助けする」については平均80.7%に対し26.0%、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」については平均70.0%に対し21.9%、「生徒の批判的思考を促す」については平均80.3%に対し15.6%となり、特に、生徒の主体的学習促進について調査した項目で参加国平均を顕著に下回っている結果が出ました。
このように、日本において自己肯定感が低い傾向があるのは、謙虚さや控えめであること、調和を乱さないなどという考え方が重んじられる文化的な背景や、第二次世界大戦の敗戦により、それまで築いてきた社会的価値観を大幅に変えざるを得なくなったという歴史的な背景などが考えられます。その一方で、家庭における親の過保護、過干渉などの影響も否めません。目覚ましい経済復興を遂げ、グローバル化が進み、国際感覚を備えた若い人たちが増えていいはずなのに、世界諸国に比べて自己肯定感が低いという点は、社会全体の課題として取り上げてもよいのではないでしょうか。
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(文責:代表理事 工藤紀子)