日本企業では出社回帰が進む中、業務内容や個別事情に合わせて在宅勤務も併用しつつ、対面コミュニケーションを活用して生産性や会社への帰属意識を高めようとする動きが広がっています。
この中で、同僚と交わす雑談の重要性が改めて注目されています。雑談は、単なるリラックスのための会話ではなく、自己肯定感や心理的なつながりを生む貴重な時間でもあります。
サントリー食品インターナショナルの調査によると、職場での雑談の理想的な長さは「3分程度」とされ、約9分を超えると負担に感じられることが分かっています。この調査を監修した上智大学教授の清水崇文氏は、多様な話題が飛び交う組織では、新しいアイディアが生まれやすいと指摘しています。これは、雑談を通じて相互の承認が生まれ、職場全体のエネルギーが高まるためともいえます。
一方、リモート勤務ではタスク中心の業務になりがちで、雑談が生まれる機会は限られます。オンラインでの会話も可能ではあるものの、雑談の自然な流れが生じにくい状況です。東北大学応用認知神経科学センターの榊浩平助教授によると、オンライン会話中の脳活動の同期度は「ボーっとしている時と同じ」で、対面会話と比べて心のつながりが形成されにくいことが示されています。
対面での雑談では、相手の顔や表情を見ながら、微笑んだりうなずいたりといったリアクションを交わすことで、相互の承認や信頼感が醸成されやすくなります。このような感覚は、個々の自己肯定感を高め、心理的安全性のある職場環境を作り出す基盤となります。一方、オンラインでの雑談は、目線のズレなどにより同様の効果が限定的であると榊助教授は指摘します。
さらに、職場で雑談ができる環境が整うと、そこで働くひとり一人の自己肯定感は向上し、仕事の意欲やチーム全体の協働力にも良い影響を及ぼします。職場の居心地に関する22年の調査では、オフィスでの雑談が「必要」と答えた人は、一般社員で83%、部長職以上で93%にのぼりました。特に、同期や近い世代の同僚が最も気軽に話しかけやすい相手として挙げられています。
コロナ禍を経て、社内のコミュニケーション活性化を課題にしている企業が多いと感じます。オフィスへの出社が増える中で、日本人は雑談が苦手とされる一方で、雑談をしやすい雰囲気をづくりも重要かもしれません。
気軽に話せる環境があると、職場の人たちとのつながりを感じやすくなり、生産性やアイディアの出やすさだけでなく、働く人の心の健康にも良い影響を与えるのです。
(文責:代表理事 工藤紀子)