

「若手はすぐ辞める」という印象と、実際の数字のズレ
「Z世代は転職が当たり前」「最近の若手はすぐに辞める」。企業の経営者や管理職の方から、このような声を聞く機会が増えています。たしかに、若手社員の退職は現場に大きな影響を与えます。採用費や育成費が無駄になるだけでなく、残された社員の負担が増え、組織全体の士気にも関わります。
しかし、データを見ると、「最近の若者だけが特別に辞めやすくなった」とは言い切れません。厚生労働省が公表した令和4年3月卒業者の就職後3年以内離職率は、大卒で33.8%でした。前年より1.1ポイント低下しており、大卒の早期離職率は長年「3割前後」で推移しています。つまり、「3年で3割が辞める」という状況は、Z世代だけに突然起きた現象ではなく、以前から続いている日本企業の構造的課題でもあります。
では、なぜ現場では「最近の若手はすぐ辞める」と感じられるのでしょうか。理由の一つは、退職が可視化されやすくなったことです。SNSや転職サービス、退職代行サービスの普及により、若手の退職や転職に関する情報が以前より目に入りやすくなりました。もう一つは、辞める理由が変化していることです。かつては「長時間労働」「給与」「人間関係」が中心でしたが、近年は「成長実感がない」「自分に合っていない」「上司に相談しづらい」「この会社にいても将来が見えない」といった、心理的・キャリア的な理由が目立つようになっています。パーソル総合研究所も、若者の離職者が特に増えているというより、辞める理由が静かに入れ替わっていると分析しています。
Z世代は本当に転職志向なのか
Z世代は「すぐ辞める世代」と語られがちですが、実際には「できれば長く働きたい」と考える若者も少なくありません。ALL DIFFERENTの2025年度新入社員意識調査では、「できれば今の会社で働き続けたい」と答えた新入社員は65.4%で、12年間で最大の割合だったと報告されています。一方で、「そのうち転職したい」「いつかは起業したい」「フリーランスとして独立したい」など、離職を視野に入れている層も約2割存在します。
また、Z世代若手社員を対象とした調査でも、若手社員の過半数である58%は「転職意向なし」とされており、「Z世代=全員が転職志向」とは言えません。むしろ現代の若者は、「この会社で働き続ける意味があるか」を冷静に見ています。給与や福利厚生だけでなく、仕事内容、成長機会、上司との関係、心理的安全性、自分の価値観との一致を重視しているのです。
つまり、Z世代は単に我慢ができない世代なのではありません。「自分がここで働く理由」を求める世代です。会社に合わせることだけを良しとするのではなく、「この仕事は自分の成長につながるのか」「自分の意見は尊重されるのか」「この組織で自分らしく働けるのか」を見ています。
若手が早期離職する主な理由
若手が早期離職する理由は、単純ではありません。たとえば、入社前に抱いていたイメージと実際の仕事内容が違う。配属先で期待される役割が分からない。上司や先輩に質問しづらく、分からないことを抱え込んでしまう。失敗をすると自分の能力そのものを否定されたように感じる。こうした小さな不安が積み重なり、「自分はこの会社に向いていないのではないか」という思いにつながっていきます。
リクルートマネジメントソリューションズの新入社員意識調査2025では、働きたい職場の特徴として「お互いに助けあう」が69.4%でトップでした。また、上司に期待することは「相手の意見や考え方に耳を傾けること」が49.7%、「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」が47.9%とされています。これは、現代の新入社員が「厳しく鍛えられる職場」よりも、「安心して相談でき、個性を尊重されながら成長できる職場」を求めていることを示しています。
たとえば、同じミスをした場合でも、上司から「なぜできないんだ」と言われる職場と、「どこでつまずいたのか一緒に確認しよう」と言われる職場では、若手の受け止め方は大きく変わります。前者では、ミスが「自分はダメだ」という自己否定につながりやすくなります。後者では、ミスが「次に改善できる学び」になります。この違いが、早期離職を防ぐ大きな分岐点になります。
離職の背景にある若者のメンタルヘルス不調
若手の早期離職を考えるうえで、見逃せないのがメンタルヘルスの問題です。パーソル総合研究所の調査では、過去3年以内に、治療なしでは日常生活が困難なほどのメンタルヘルス不調を経験した正規雇用者は14.6%でした。特に20代では、男性18.5%、女性23.3%が経験しており、若年層ほどメンタルヘルス不調の経験率が高いことが示されています。さらに、メンタルヘルス不調を経験した20代の退職率は35.9%で、他の年代より高い水準でした。
これは、若手が弱いという話ではありません。学生から社会人になる時期は、生活リズム、人間関係、評価基準、責任の重さが一気に変わります。特に現代の若者は、SNSによって常に他者と比較されやすく、失敗や遅れを過度に気にしやすい環境にいます。さらに、コロナ禍以降、学生時代にリアルな対人経験や集団活動が制限された世代も多く、職場での雑談、相談、報連相、叱責への耐性を十分に育てる機会が少なかった可能性があります。
そのため、仕事でつまずいたときに「今回はうまくいかなかった」ではなく、「自分は社会人として向いていない」「自分には価値がない」と受け止めてしまうことがあります。この状態が続くと、相談する前に心が折れ、退職という選択肢に一気に傾いてしまうのです。
若手が長く働きたいと思える企業の条件
若手が長く働きたいと思える企業には、いくつかの共通点があります。第一に、心理的安全性があることです。分からないことを質問できる。失敗しても人格否定されない。自分の意見を言っても受け止めてもらえる。この安心感がなければ、若手は挑戦する前に萎縮してしまいます。
第二に、成長実感があることです。Z世代は、ただ会社に所属するだけでは満足しません。「昨日より少しできるようになった」「自分の仕事が誰かの役に立っている」と感じられることが重要です。大きな成果を求める前に、小さな成功体験を積ませる設計が必要です。
第三に、上司や先輩との関係性です。現代の若手は、理不尽な厳しさよりも、納得感のある指導を求めています。「なぜこの仕事が必要なのか」「どこまで任されているのか」「何を期待されているのか」を丁寧に伝えることが、安心と主体性につながります。
たとえば、入社1か月目には「会社に慣れる」、2か月目には「基本業務を一人で進める」、3か月目には「小さな改善提案をしてみる」といった段階的な目標を設定します。そして、1on1で「できたこと」「困っていること」「次に挑戦したいこと」を確認します。このような関わりが、若手の定着を支える土台になります。
企業として取るべき対策
企業が若手の早期離職を防ぐためには、採用後のフォローを「配属して終わり」にしないことが重要です。まず、入社前後のギャップを減らすために、仕事内容や職場文化を正直に伝えることが必要です。良い面だけでなく、成長に必要な努力や大変さも伝えることで、入社後のミスマッチを減らせます。
次に、管理職・OJT担当者への教育が不可欠です。若手の離職は、本人の問題だけではなく、受け入れる側の関わり方にも大きく影響されます。上司が「自分たちの頃はこうだった」と過去の常識で接すると、若手との間に溝が生まれます。必要なのは、甘やかすことではなく、安心感と成長機会を両立させるマネジメントです。
また、メンタルヘルス不調の早期発見も重要です。遅刻や欠勤が増える、表情が暗くなる、質問が減る、ミスを過度に怖がる、周囲との接点が少なくなるといった変化は、心の不調のサインかもしれません。定期的な1on1やアンケート、相談窓口の整備によって、退職に至る前に支援する仕組みが必要です。
新入社員に自己肯定感研修が必要な理由
新入社員に自己肯定感研修が必要な理由は、単に「前向きになってもらうため」ではありません。社会人として働くうえで、失敗や注意、比較、評価は避けられません。そのときに、自分の存在価値まで否定せず、冷静に課題を受け止め、次の行動につなげる力が必要だからです。
自己肯定感とは、「成果を出した自分」だけでなく、「失敗する自分」「不安を感じる自分」「まだ未熟な自分」も含めて、自分の存在を認める力です。自己肯定感が低いと、上司からのフィードバックを「改善点」ではなく「否定」と受け取りやすくなります。その結果、挑戦を避けたり、相談できなくなったり、早期離職につながることがあります。
一方、自己効力感とは、「自分ならできる」「行動すれば少しずつ変えられる」と感じる力です。新入社員にとって大切なのは、最初から完璧にできることではありません。分からないことを質問する、失敗から学ぶ、小さな成功体験を重ねる。その積み重ねによって、「自分はこの職場で成長できる」という感覚が育ちます。
自己肯定感研修では、若手が自分の感情や思考のクセに気づき、失敗を過度に自己否定へ結びつけない考え方を学びます。また、自己効力感を高めるために、小さな行動目標を設定し、成功体験を言語化するワークを行います。これは、メンタルヘルス予防であると同時に、主体性・挑戦意欲・職場定着を高める人材育成でもあります。
早期離職を防ぐ鍵は、「辞めないように管理すること」ではない
若手の早期離職を防ぐために必要なのは、若者を引き止めることではありません。若手が「この会社で成長できる」「自分はここにいていい」「自分の力を発揮できる」と感じられる職場をつくることです。
Z世代は、ただ安定を求めているわけでも、ただ自由を求めているわけでもありません。自分の価値観を大切にしながら、納得感を持って働きたい世代です。だからこそ、企業には、若手を管理する視点から、若手の自己肯定感と自己効力感を育てる視点への転換が求められます。
新入社員の早期離職は、本人だけの問題ではありません。それは、職場がどれだけ安心して挑戦できる場になっているかを映し出す鏡です。若手が長く働きたいと思える企業とは、失敗を責める会社ではなく、成長を支える会社です。自己肯定感と自己効力感を育む研修は、これからの時代の新入社員教育において、欠かせない土台となるのではないでしょうか。



















