

中堅社員が抱える「見えにくい停滞感」
企業において中堅社員は、組織の中核を担う重要な存在です。若手社員の育成、現場の実務推進、管理職との橋渡し、顧客対応、プロジェクト運営など、日々の業務を安定的に支えているのは、多くの場合、経験を積んだ中堅社員です。
一方で、近年、多くの組織で「中堅社員の停滞感」が課題になっています。
入社から一定の年数が経ち、仕事の進め方もわかっている。大きな失敗もなく、周囲からも頼りにされている。しかしその一方で、「このままでよいのだろうか」「新しいことに挑戦したい気持ちはあるが、何から始めればよいかわからない」「今さら失敗したくない」と感じている社員も少なくありません。
このような状態が続くと、本人の成長意欲が低下するだけでなく、組織全体にも影響を及ぼします。中堅社員が現状維持にとどまることで、職場に新しい発想や改善提案が生まれにくくなり、結果として組織のマンネリ化を招いてしまうのです。
働き盛りの中堅社員が力を発揮できない背景
中堅社員は、本来であれば最も力を発揮できる時期にあります。経験もあり、現場感覚もあり、若手とは違う判断力や調整力も身につけています。
しかし、経験があるからこそ、挑戦に慎重になることもあります。
たとえば、次のような悩みです。
「若手の頃のように、失敗して学ぶことが許されにくい」
「管理職を目指すべきか、専門職として進むべきか迷っている」
「新しいスキルを学びたいが、日々の業務に追われて後回しになる」
「自分の強みが何なのか、改めて聞かれると答えられない」
「今の仕事はこなせるが、成長している実感がない」
こうした悩みは、決して本人の意欲不足ではありません。むしろ、責任感があり、周囲の期待に応えようとしてきた人ほど、自分のキャリアを後回しにしてしまうことがあります。
リクルートマネジメントソリューションズも、若手・中堅社員をめぐる課題として、管理職志向やキャリア意識、退職をめぐる状況などが複雑に絡み合っていることを指摘しています。特に中堅社員の成長経験やキャリア志向を把握することは、今後の人材育成において重要な視点です。
現状維持が組織のマンネリ化を招く
中堅社員の停滞感は、個人の問題にとどまりません。
中堅社員が「今のままでよい」と感じるようになると、業務改善への意欲が下がり、新しい取り組みに対して消極的になります。若手社員も、その姿を見て「この会社では挑戦しなくてもよいのだ」と感じてしまうかもしれません。
反対に、中堅社員が前向きに学び、挑戦し、自分の役割を再定義している職場では、若手社員にも良い影響が生まれます。
つまり、中堅社員の活性化は、組織全体の活性化につながります。
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%に上っています。また、正社員に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している事業所は49.4%で、前回より7.8ポイント上昇しています。これは、企業が社員の主体的なキャリア形成支援の必要性を強く感じ始めていることを示しています。
自己効力感が「もう一度挑戦する力」を育てる
中堅社員が現状維持から一歩踏み出すために重要なのが、自己効力感です。
自己効力感とは、「自分ならできる」「行動すれば状況を変えられる」と感じる力です。
中堅社員が新たな目標に挑戦できない背景には、能力不足ではなく、自己効力感の低下がある場合があります。
たとえば、過去に提案が通らなかった経験がある。新しいプロジェクトで失敗したことがある。上司から十分に評価されなかった経験がある。こうした経験が積み重なると、「どうせ言っても変わらない」「自分が動いても意味がない」と感じやすくなります。
また、長く同じ業務を続けていると、「自分はこの範囲の仕事しかできない」と無意識に思い込んでしまうこともあります。これは、経験がある人ほど陥りやすい落とし穴です。
自己効力感が高まると、「今さら遅い」ではなく、「今からでもできる」と考えられるようになります。「自分には向いていない」ではなく、「まず小さく試してみよう」と行動に移せるようになります。
自己効力感を阻害する要因
中堅社員の自己効力感を阻害する要因には、いくつかの特徴があります。
一つ目は、失敗への恐れです。中堅社員になると、周囲から「できて当然」と見られやすくなります。そのため、新しいことに挑戦するほど、失敗したときの評価低下を恐れてしまいます。
二つ目は、役割の固定化です。「あなたはこの業務の担当者」「この分野の人」という見られ方が強くなると、自分自身もその枠の中でしかキャリアを考えられなくなります。
三つ目は、承認やフィードバックの不足です。若手時代は成長を褒められる機会が多くても、中堅になると「できて当たり前」とされ、努力や工夫が見過ごされがちです。その結果、自分の成長や貢献を実感しにくくなります。
四つ目は、学び直しへの心理的ハードルです。新しい知識やスキルを学ぶ必要性は感じていても、「今から学んでも遅いのではないか」「若手の方が吸収が早いのではないか」と考え、行動に移せないことがあります。
厚生労働省の調査では、キャリアコンサルティングを行った効果として、「労働者の仕事への意欲が高まった」が正社員で49.1%、「自己啓発する労働者が増えた」が33.0%と報告されています。中堅社員の意欲を引き出すうえで、キャリアを見つめ直す機会が有効であることがうかがえます。
土台となる自己肯定感がなぜ重要なのか
自己効力感を高めるためには、その土台として自己肯定感が必要です。
自己肯定感とは、「ありのままの自分には価値がある」と感じられる感覚です。
自己肯定感が低い状態では、挑戦の結果を自分の価値と結びつけすぎてしまいます。うまくいかなかったときに、「この方法は合わなかった」と考えるのではなく、「自分には価値がない」「自分は能力がない」と受け止めてしまうのです。
そのため、現状維持から一歩踏み出すためには、「失敗しても自分の価値は変わらない」「今の自分にも十分な経験と強みがある」と感じられることが大切です。
自己肯定感が育つことで、中堅社員は過去の経験を肯定的に捉え直し、自分の強みや役割を再確認できるようになります。そのうえで、「これから何を学び、どのように貢献していきたいか」を主体的に考えられるようになるのです。
主体的なキャリア開発を支援する研修へ
日本セルフエスティーム普及協会では、中堅社員が現状維持から一歩踏み出し、自分らしいキャリアを主体的に描くための研修を提供しています。
研修では、まず自己肯定感の視点から、これまでの経験や強み、乗り越えてきた出来事を振り返ります。自分が積み重ねてきた価値を再認識することで、「自分にはまだできることがある」という前向きな土台を整えます。
次に、自己効力感の視点から、小さな成功体験を整理し、今後挑戦したい目標を具体化していきます。大きな変化を一度に求めるのではなく、日々の業務の中でできる小さな一歩を設定することで、行動につなげやすくします。
たとえば、後輩育成の関わり方を変える。会議で一つ提案してみる。新しいスキルを月に一つ学ぶ。これまで避けていた役割に手を挙げてみる。こうした小さな挑戦の積み重ねが、自己効力感を育てていきます。
中堅社員が再び自分の可能性を信じ、主体的に動き始めることは、本人のキャリアだけでなく、組織全体の活力を高めます。
マンネリを打破する鍵は、外から強く動かすことではありません。
社員一人ひとりが、「自分には価値がある」「自分ならできる」と感じ、もう一度、自分の力で一歩踏み出せるように支援することです。
中堅社員の力を引き出すことは、組織の未来をつくることでもあります。



















