5月病・6月病を防ぐために企業ができること

工藤紀子
この記事の監修者
工藤紀子|代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。自己肯定感の研究と実践に32年取り組み、のべ2万8千人以上に研修を実施。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』『職場の人間関係は自己肯定感が9割』等。詳しいプロフィール →

5月病・6月病は、個人の甘えではなく「環境変化への反応」である

新年度が始まってしばらく経つ5月から6月にかけて、企業の人事担当者や管理職から「新入社員の元気がなくなってきた」「若手が急に休みがちになった」「中堅社員にも疲れが見えている」という声を聞くことがあります。一般的に「5月病」「6月病」と呼ばれる状態です。

5月病・6月病は正式な病名ではありません。しかし、入社、異動、昇進、部署変更、新しい人間関係など、春の大きな環境変化に心身が適応しきれず、不安、疲労感、意欲低下、睡眠不調、集中力低下などが表れやすい時期であることは、企業にとって見逃せない課題です。

特に新入社員は、学生から社会人へと生活が大きく変わります。毎日の出社、初めての職場文化、上司・先輩との関係、評価されることへの緊張、仕事についていけるかという不安。表面上は笑顔で頑張っていても、内側では大きなストレスを抱えていることがあります。

企業が今の時期に頭を抱えやすいテーマ

5月から6月にかけて、企業が直面しやすいテーマは大きく5つあります。

一つ目は、新入社員の不安と早期離職リスクです。厚生労働省によると、令和4年3月卒業者の就職後3年以内離職率は、新規大卒就職者で33.8%、新規高卒就職者で37.9%でした。大卒の約3人に1人が3年以内に離職している状況は、企業にとって採用・育成コストの面でも大きな課題です。

二つ目は、若手社員のコミュニケーション不足です。2025年に紹介された調査では、20代・30代の約40%が「五月病」の症状を経験しており、若手社員は社内コミュニケーションの不足を原因として感じやすいことが報告されています。

三つ目は、管理職の関わり方です。リクルートマネジメントソリューションズの「新入社員意識調査2025」では、新入社員が仕事・職場生活をするうえで感じる不安のトップは「仕事についていけるか」64.8%でした。また、働きたい職場の特徴は「お互いに助けあう」が69.4%で最も高く、上司に期待することは「相手の意見や考え方に耳を傾けること」49.7%、「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」47.9%が上位でした。

四つ目は、仕事量や責任の重さによるストレスです。厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査」では、現在の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者は68.3%でした。その内容は「仕事の量」43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」36.2%、「仕事の質」26.4%が上位でした。

五つ目は、メンタルヘルス不調の予防です。5月病・6月病の段階では、「少し元気がない」「集中できない」「朝がつらい」といった小さなサインに見えることがあります。しかし、そのまま放置すると、欠勤、休職、離職につながる可能性があります。だからこそ企業には、早い段階での気づきと支援が求められます。

現場で起きている課題

現場でよく起きるのは、「頑張っている人ほど不調に気づかれにくい」という問題です。新入社員は「迷惑をかけてはいけない」「評価を下げたくない」と思い、分からないことを一人で抱え込みがちです。中堅社員や管理職も、「自分が弱音を吐くわけにはいかない」と考え、疲労や不安を隠してしまうことがあります。

たとえば、新入社員が会議で発言しなくなった、質問が減った、提出物のミスが増えた、表情が硬くなった、昼休みに一人でいることが増えた。このような変化は、単なる性格の問題ではなく、心の余裕がなくなっているサインかもしれません。

また、上司側にも課題があります。忙しい現場では、どうしても「早く覚えてほしい」「自分で考えて動いてほしい」という期待が先に立ちます。しかし、新入社員にとっては、何をどこまで自分で判断してよいのかが分からないことも多いものです。「なぜ分からないの?」という言葉は、本人にとって「自分は能力がない」と受け取られることがあります。

自己肯定感が低いと、ストレスを自己否定に変えてしまう

5月病・6月病の予防を考えるうえで重要なのが、自己肯定感です。自己肯定感とは、成果を出した自分だけでなく、失敗する自分、不安を感じる自分、まだ未熟な自分も含めて、自分の存在を認める力です。

自己肯定感が低い状態では、仕事上の小さな失敗が「自分はダメだ」という自己否定につながりやすくなります。上司からの指摘も、「改善のためのフィードバック」ではなく、「自分を否定された」と受け取りやすくなります。

たとえば、資料作成でミスをした新入社員がいたとします。自己肯定感が低いと、「今回は確認が足りなかった」ではなく、「自分は社会人に向いていない」と感じてしまうことがあります。この受け止め方が続くと、挑戦することが怖くなり、質問することもできなくなり、心の中で孤立していきます。

一方、自己肯定感が育っている社員は、失敗を自分の存在価値と切り離して受け止めることができます。「今回はうまくいかなかった。でも、次は確認方法を変えてみよう」と考えられるため、ストレスを成長の材料に変えやすくなります。

自己効力感が「またやってみよう」という力になる

5月病・6月病になりやすい時期には、自己効力感も重要です。自己効力感とは、「自分ならできる」「行動すれば少しずつ変えられる」と感じる力です。

新入社員に必要なのは、いきなり大きな成果を出すことではありません。小さな成功体験を重ねることです。「今日は一つ質問できた」「先輩に確認してから提出できた」「お客様へのメールを自分で作成できた」。このような小さな“できた”を本人が認識できるようにすることが、自己効力感を高めます。

上司や先輩は、成果だけでなくプロセスを承認することが大切です。「この部分、前回より分かりやすくなったね」「確認してから進めたのがよかったね」「自分から相談できたのは大きな一歩だね」。こうした言葉は、新入社員にとって「自分は少しずつ成長できている」という実感につながります。

企業が取るべき具体的な対策

企業が5月病・6月病を防ぐためにできることは、特別なことばかりではありません。まず大切なのは、5月から6月を「フォロー強化月間」と位置づけることです。入社直後の研修だけで終わらせず、1か月後、2か月後にこそ、心の状態を確認する機会を設けます。

具体的には、短時間の1on1を定期的に行い、「仕事で困っていること」「分からないままになっていること」「最近できるようになったこと」を確認します。このとき、上司が評価者の立場だけで話を聞くと、本人は本音を言いにくくなります。まずは「困っていることがあって当然」「分からないことを聞くのは成長の一部」というメッセージを伝えることが大切です。

次に、管理職やOJT担当者への教育が必要です。若手のメンタル不調を防ぐには、上司の関わり方が大きく影響します。指示の出し方、フィードバックの伝え方、質問しやすい雰囲気づくり、ミスを責めずに振り返る対話などを学ぶことで、職場の心理的安全性は大きく変わります。

さらに、社員自身が自分の心の状態に気づくセルフマネジメント教育も重要です。睡眠、疲労、感情の変化、思考のクセ、ストレスサインを知ること。自分を責めすぎないこと。必要なときに相談すること。これらを研修で学ぶことで、不調が深刻化する前に対処しやすくなります。

「この会社で働いていけそう」と思える職場をつくる

5月病・6月病への対応は、単なるメンタルヘルス対策ではありません。それは、社員が「この会社で働いていけそう」「ここなら成長できそう」と感じられる職場づくりです。

現代の新入社員は、厳しさを嫌がっているのではありません。むしろ、成長したい、貢献したいという思いを持っています。リクルートマネジメントソリューションズの調査でも、仕事をするうえで重視することの上位は「成長」35.1%と「貢献」23.8%でした。

だからこそ企業は、若手に対して「もっと頑張れ」と言うだけでなく、「あなたは何ができるようになっているのか」「どこで役に立っているのか」「次に何を一緒に伸ばしていくのか」を言葉にする必要があります。

5月病・6月病は、個人の弱さではなく、環境変化に対する自然な反応です。大切なのは、そのサインを見逃さず、早い段階で支援することです。自己肯定感は、社員が自分を責めすぎずに働くための土台です。自己効力感は、「もう少しやってみよう」と前に進む力です。

新入社員や若手社員が、失敗しても自分の価値を失わず、困ったときに相談でき、小さな成功体験を積みながら成長できる職場をつくること。それこそが、5月病・6月病を防ぎ、早期離職を減らし、社員が長く安心して働き続けるための本質的な対策なのではないでしょうか。

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工藤紀子 代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。32年以上にわたり自己肯定感(セルフエスティーム)の研究と実践に取り組み、日本人の特性に最適化した独自メソッドを開発。

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