優秀なプレイングマネージャーほど陥る「自己否定」のワナ

Man in a navy suit sitting at a desk with a laptop, head resting on his hand in a stressed pose.
工藤紀子
この記事の監修者
工藤紀子|代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。自己肯定感の研究と実践に32年取り組み、のべ2万8千人以上に研修を実施。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』『職場の人間関係は自己肯定感が9割』等。詳しいプロフィール →

管理職のメンタル不調は、個人の問題ではない

企業において管理職は、組織の成果を左右する重要な存在です。
部下の育成、チームの目標達成、業務改善、上層部との調整、トラブル対応、評価面談、メンタルケアなど、管理職に求められる役割は年々広がっています。

一方で、管理職自身のメンタル不調は、見過ごされやすい課題でもあります。

管理職は「人を支える立場」「弱音を吐いてはいけない立場」と見られやすく、自分自身の疲れや不安を後回しにしがちです。しかし、管理職が心身の余裕を失うと、判断力やコミュニケーションの質が低下し、部下への関わり、チームの雰囲気、業績にも影響が及びます。

つまり、管理職のメンタル不調は、本人だけの問題ではありません。組織全体の生産性、離職防止、心理的安全性、エンゲージメントに関わる重要な経営課題なのです。

管理職が抱える課題は複雑化している

現代の管理職は、単に「部下に指示を出す人」ではありません。
多くの企業で、管理職自身もプレイヤーとして成果を求められながら、同時にマネージャーとして人材育成や組織運営を担っています。

いわゆるプレイングマネージャーです。

プレイングマネージャーは、自分の業務成果も出さなければならない一方で、部下の進捗管理、相談対応、評価、育成、トラブル対応も求められます。さらに近年は、ハラスメント防止、メンタルヘルス対応、多様な働き方への配慮、若手の離職防止など、管理職に期待される役割が増えています。

その結果、管理職は次のような悩みを抱えやすくなります。

「自分の仕事が終わらない」
「部下の育成に十分な時間をかけられない」
「上司からも部下からも期待され、板挟みになっている」
「チームの成果が出ないと、自分の責任だと感じる」
「相談を受けるばかりで、自分が相談できる相手がいない」
「管理職として正解がわからない」

このような状態が続くと、管理職は心の余裕を失い、次第に「自分は管理職に向いていないのではないか」と感じるようになります。

優秀なプレイングマネージャーほど陥る「自己否定」のワナ

特に注意したいのは、優秀なプレイヤーとして成果を上げてきた人ほど、管理職になった後に自己否定に陥りやすいということです。

プレイヤー時代は、自分の努力やスキルによって成果を出すことができました。ところが管理職になると、自分が直接動くだけでは成果につながりません。部下の成長、チームの関係性、組織の方針、他部署との調整など、自分だけではコントロールできない要素が増えていきます。

そのため、これまで「自分が頑張れば何とかなる」と考えてきた人ほど、管理職になった後に苦しくなります。

部下が思うように動かない。
チームの成果が上がらない。
若手がすぐに辞めてしまう。
上司からはもっと成果を求められる。

そのたびに、「自分の力が足りない」「自分の伝え方が悪い」「自分は管理職失格だ」と、自分を責めてしまうのです。

もちろん、振り返りは大切です。しかし、すべてを自分の責任として抱え込み、自分の価値まで否定してしまうと、管理職自身のメンタルは大きく消耗していきます。

データから見る、働く人のストレスと管理職のリスク

厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査」では、現在の仕事や職業生活に関して、強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は68.3%でした。その内容として最も多かったのは「仕事の量」43.2%、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」36.2%、「仕事の質」26.4%となっています。

管理職は、まさにこの「仕事の量」「責任の発生」「仕事の質」に強く関わる立場です。さらに、自分自身の成果だけでなく、部下やチームの成果にも責任を持つため、ストレス要因が複合化しやすいと言えます。

また、厚生労働省の同調査では、ストレスについて相談できる人がいる労働者は94.6%とされています。 一方で、管理職の場合は「部下の相談を受ける側」であるため、自分自身の悩みを誰に、どこまで相談してよいのか迷いやすい側面があります。

つまり、管理職には、ストレスを抱えやすい構造があるにもかかわらず、自分の不調に気づきにくく、相談しにくいというリスクがあるのです。

管理職のメンタル不調を引き起こす要因

管理職のメンタル不調を引き起こす要因には、いくつかの特徴があります。

一つ目は、役割過多です。
自分の業務、部下の育成、組織目標の達成、他部署との調整など、多くの役割を同時に担うことで、常に時間に追われる状態になります。

二つ目は、責任の重さです。
部下のミス、チームの成果、離職、トラブル対応など、自分だけではコントロールできないことまで自分の責任として抱え込みやすくなります。

三つ目は、孤立感です。
管理職になると、部下には弱音を見せにくくなり、上司にも「できていない」と思われたくない気持ちから、相談をためらうことがあります。

四つ目は、自己評価の低下です。
プレイヤー時代のように自分の成果が見えにくくなるため、「自分は役に立っているのか」「管理職として価値があるのか」と不安を感じやすくなります。

五つ目は、感情の未処理です。
怒り、不安、焦り、罪悪感、無力感などを感じても、管理職として冷静でいようとするあまり、自分の感情を置き去りにしてしまうことがあります。

このような要因が積み重なることで、管理職は徐々に心の余裕を失い、メンタル不調に近づいていきます。

予防策として必要なのは「自分を整える力」

管理職のメンタル不調を予防するためには、業務量の調整や相談体制の整備など、組織としての取り組みが欠かせません。

しかし、それと同時に、管理職本人が自分の状態に気づき、自分を整える力を持つことも重要です。

自分を整えるとは、単にストレスを我慢することではありません。

自分が何に疲れているのかを理解する。
抱え込みすぎている役割に気づく。
完璧を求めすぎている自分を緩める。
できていないことだけでなく、できていることにも目を向ける。
一人で抱え込まず、必要な支援を求める。

こうした力を育てることが、管理職のメンタル不調の予防につながります。

なぜ自己肯定感が管理職に必要なのか

管理職がイキイキと働くために必要な土台が、自己肯定感です。

自己肯定感とは、「ありのままの自分には価値がある」と感じられる感覚です。

管理職は、日々さまざまな評価にさらされています。
チームの成果、部下の成長、上司からの期待、組織目標の達成。うまくいかないことがあると、「自分の管理能力が足りない」と感じやすくなります。

しかし、自己肯定感が育っている人は、失敗や課題を自分の価値そのものと結びつけすぎません。

「今回はうまくいかなかった」
「この関わり方は見直す必要がある」
「まだ改善できる余地がある」

このように、課題を冷静に受け止めながらも、自分自身の価値を否定せずにいられます。

自己肯定感は、管理職が自分を責めすぎず、前向きに改善し続けるための心理的な土台なのです。

自己効力感が、管理職の行動力を支える

自己肯定感とともに重要なのが、自己効力感です。

自己効力感とは、「自分ならできる」「行動すれば状況を変えられる」と感じる力です。

管理職は、答えのない課題に向き合う場面が多くあります。
部下との関係づくり、チームの立て直し、業務改善、目標達成、離職防止など、すぐに正解が出ないことばかりです。

そのときに自己効力感が低いと、「どうせ変わらない」「自分には無理だ」と感じ、行動が止まりやすくなります。

一方で、自己効力感が高まると、「まず一つ試してみよう」「関わり方を変えてみよう」「小さな改善から始めよう」と考えられるようになります。

Judge & Bonoのメタ分析では、自己肯定感や一般的自己効力感などを含む「中核的自己評価」が、職務満足や職務パフォーマンスと関連することが示されています。
管理職が自分を信じ、前向きに行動できる状態を整えることは、本人のメンタルだけでなく、組織成果にも関わる重要なテーマです。

自分を整えるマネジメント研修の必要性

日本セルフエスティーム普及協会では、管理職が自分自身を整えながら、部下やチームとよりよい関係を築くためのマネジメント研修を提供しています。

研修では、まず管理職自身が抱えているストレスや自己否定のパターンに気づきます。
「自分が全部やらなければならない」
「弱音を吐いてはいけない」
「部下の問題はすべて自分の責任だ」
といった思い込みを整理し、自分を過度に責めない視点を育てます。

次に、自己肯定感の視点から、これまでの経験や強み、貢献してきたことを振り返ります。管理職としてできていないことだけでなく、すでにできていることにも目を向けることで、心の土台を整えます。

さらに、自己効力感の視点から、明日から取り組める小さな行動を具体化します。部下との1on1で問いかけを一つ変える。自分の業務を一つ手放す。困ったときに相談できる相手を決める。完璧を目指すのではなく、小さな改善を積み重ねることが、管理職としての自信を回復させていきます。

管理職が自分を整え、イキイキと働けるようになることは、チーム全体の安心感につながります。

管理職のメンタル不調を防ぐことは、組織を守ることです。
管理職の自己肯定感と自己効力感を育てることは、部下を育てる力、チームを動かす力、組織を前進させる力を育てることでもあります。

これからの管理職研修には、スキルや知識だけではなく、「管理職自身の心の土台を整える」視点が必要です。

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工藤紀子 代表理事
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。32年以上にわたり自己肯定感(セルフエスティーム)の研究と実践に取り組み、日本人の特性に最適化した独自メソッドを開発。

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